針切 重之の子の僧の集21             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集21 (素色)15.0cmx22.5cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ


   かくて月ごろかさなりはべれば

 おもひやる 心のそらも かきくもり、そでになみだの

 日をもふるかな


   山にこもりてはべるころ京よりはらからのな
   にかはいづるといひてはべる遍ごとに

 いまはとて いりし山道を かへらずば、こひしき人も みて

 ややみなむ


   あやめにつけてひとのもとにはじめて

 けふよりは よどのわたりに おりたちて、あやめのくさの

 ねをぞたづぬる



   かくて月ごろ重なり侍れば

 思ひやる 心の空も 掻き曇り、袖に涙の

 日を思ふるかな


   
山に籠りて侍る頃京より同胞の何かは
   出ると云ひて侍る遍ごとに


 今はとて 入りし山道を 返らずば、恋しき人も 見て

 や病なむ


   菖蒲に付けて人の元に初めて

 今日よりは 淀の渡りに 降り立ちて、菖蒲の草の

 値をぞ尋ぬる


 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
次項~残り半葉分の内の詞書の一部
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       解説

   可久天月己呂可左奈利波部礼盤

 於裳悲也留 心乃曾良毛 可支九毛利、曾天爾奈美多乃

 日乎毛不留可那


     山仁己毛利天波部留己呂京與利者良可良乃那
     仁可者以川留止以悲天波部留遍己止仁


 以末波止天 以利之山道遠 可部良春波、己比之支人毛 美天

 也々美奈武  


     安也女爾川計天悲止乃毛止仁波之女天


 希婦與利波 與止乃和多利仁 於利多知天、安也女乃久左乃

 禰乎曾多川奴留






「乀」;3文字の繰り返し、「~」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
「爾」は「尓」とすることも
「个」は「介」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「弖」は「天」とすることも
「與」は「与」とすることも □は文字不明か所

解説

     こうして月日が重なって行くと


 思ひやる心の空も掻き曇り、袖に涙の日を思ふるかな

思いを馳せる心の空(内心に渦巻く感情)も急に暗くなり、袖に涙を溜めてしまう日々の事を考えてしまうのかな!。(離れて暮らす心の拠り所のお方の事を思うと何故だか憂鬱になり、またもや涙する日々の事を心配して悩むことになるのでしょうか。)

 も

思ふ;「おもふ」の頭母音「お」の脱落したもの。


    山寺に籠っていました頃、都より同じ親の兄弟姉妹の誰かが現れると云っていらっしゃる度毎に

 今はとて入りし山道を返らずば、恋しき人も見てや病み(闇)なむ
今はもうこれでお別れですと入ってきた山道を引き返さなかったならば、(今ここにこうしている私を)恋しい御方も見ては心痛めてくれるのでしょうか。



「病み」は「闇」との掛詞。「闇」は心が乱れて迷う事。
係助詞「や」を疑問と取るか、反語と取るかで詠者の心情が変わってくる。これまでの流れからすると反語と取れなくも無いが、すべて断簡となっている為、時系列の中でどの時点の物かが不明であり、時を重ねて多少の悟りの境地などが生まれてきていたとしたなら、純粋に疑問と取るのも悪くはないかと。


    菖蒲に(和歌を)付けて撰者の元に初めて、(届けてみました)

 今日よりは淀の渡りに降り立ちて、菖蒲の草の値をぞ尋ぬる。
今日からは淀の船着場付近に降りて行き菖蒲の生えた川辺に立ち入って、菖蒲草の根の長さと歌の値打ち(出来栄え)をお伺いしてみたいものですね。(今日からは私も勝負の世界に降り立って、根合に訪れて行き歌の出来栄えを尋ねてみたいものですよ)

あやめぐさ  しょうぶ
菖蒲草;菖蒲のこと。端午の節句には菖蒲を軒に差したり、身に着けたり、また菖蒲湯にしたりしてその香りを楽しむとともに魔除けとした。

 しょうぶねあわせ
菖蒲根合;平安時代の物合せの一つ、端午の節句に左右に分かれて菖蒲の根の長短を比べ、また歌を詠み添えるなどして勝負を定めた遊戯。

「根」と「値」、「訪ぬ」と「尋ぬ」、「渡り」と「辺り」とがそれぞれ掛詞。

よど

淀;現在の京都市伏見区淀町付近。鴨川・木津川・桂川・宇治川が合流して淀川になる場所。秀吉が淀君(茶々)を住まわせた淀城が在ったのもこの地で、江戸時代には松平・稲葉・永井各氏の城下町として栄え、淀川水運の河港として交通の要地で有った。



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